日本外国語専門学校 海外芸術大学留学科 芸術留学プログラム

海外芸術大学 入学審査
ロンドン芸術大学の審査トレンド
2010年1月27日

入学審査の様子

ファインアート志望の増大という傾向

 文:海外芸術大学留学科中村先生

海外芸術大学の進学先として、常に強い人気を誇るロンドン芸術大学の入学審査が、1月18日にJCFL学内で開催されました。その結果、全員が合格し、それぞれに適したコースへの進学が決まりました。
今回の審査を通じて特徴的なことは、デザイン志望の学生に対するファインアート志望の学生の割合が、これまで以上に拡大したことです。全体の70パーセント以上の学生がファインアートを志望するということは、これまでのJCFLでは初めてのことであり、このことからさまざまなことが読み取れると思います。

ファインアートコースという選択

 海外の芸術大学の大学名の多くは、最後が「アート&デザイン」と表記されます。つまり芸術大学の学習は、アートとデザインという異なる分野に二分されています。そしてここで言う「アート」は「ファインアート」(Fine Art)を意味しています。

二つの分野を分ける理由は、そこでどのような材料や方法を用い、何を作っているのかということではありません。それぞれの分野を分けているのは、「何を目的とするのか」という点です。デザイン分野に含まれる、ファッション・デザインやグラフィック・デザインなどは、それぞれの産業が求める人材の育成を目的しています。要するに「美しさ」に関わり、「創造的な」能力を基盤とする職業訓練を行うことが、芸術大学におけるデザイン分野の役割です。

それに対してファインアート分野は、デザイン分野が目的とするような明確な輩出先を持ってはいません。育成されたアーティストが活躍する場を指して、それを「アート産業」と言うことはできますが、そのような「アート産業」は、求められるアーティスト像をあらかじめ用意することはできないのです。なぜならば、アーティストに求められる創造性は、その言葉のとおり、作品を通じ、もしくはその生き方を通じて、まだ誰も見たことのない、新しい世界を見つけることだからです。

それでは、新しい世界を見つけるためにファインアート分野が、具体的に何を目指しているかというと、それはアーティスト一人ひとりの内面的な成長にほかなりません。デザイン分野が既存の産業をイメージするのに対して、ファインアート分野は、一人ひとりの可能性を最大限に保障し、それを自分自身で掘り下げるための支援を、学習として行うところなのです。そのため、ファインアート分野に入学する学生の必要条件は、入学を志しそれを準備する段階において、「自分」というものをしっかりと持っているということなのです。

「自分探し」に気づかせた社会的環境

  いつの時代にも若い人たちは、自分自身の「自分」を追いかけています。しかし、さまざまな社会的環境の中で、「自分探し」に集中的に取り組むことは、容易なことではありません。おそらく大多数の人々が、本当は大切な自分の人生を、自分のため、自分自身の「自分探し」に費やしたいと考えています。しかし同時に私たちは、社会的な生活を自分自身の手で築かなくてはなりません。そのため、これまでは、多くの人がファインアート分野への志望を、途中であきらめざるを得ませんでした。

しかし、社会的状況が大きく変わりつつあります。エコロジーや世界的構造不況の影響から、将来の生活をあらかじめ保障し、学習の進路を保障できるような、既存の産業構造が大きく崩れつつあるのです。日本がバブル景気に沸きあがり、まだエコロジー的な考え方に気づく前の時代に、日本経済の成長を背景とする、自信過剰な時代がありました。そして、元気のよい産業界を目指して、芸術系大学ではデザイン分野への入学志望者が急増しました。しかし、時代が変わり社会的環境が大きく変わりました。世界は今、かつてない速度で、その枠組みを作り変えています。

 私たちは今、厳しい経済情勢の中で新しい時代を模索しています。それは社会的なあらゆる分野を巻き込み、芸術分野もその中で大きく動いています。JCFLの学生たちは学習を通じて、その変化を敏感にそして直感的に捉えているのです。そしてその結果、既存の産業を前提とするデザイン分野に見切りをつけ、新しい世界を目指すために、まずやるべきこととして、「自分探し」の重要性に気づき、ファインアートへの志望が増加したと考えられるのです。


ロンドンで学ぶ意味

 ずいぶん話が大きくなりましたが、ファインアート志望の学生増大の理由を理解するためには必要なプロセスでした。そして、実は芸術大学の学習内容自体も、ロンドンでは今、大きく動き始めているのです。

残念ながら、旧来の教育を続けている日本の芸術系大学からは、世界的な枠組みの変化に対応しようと、日々模索を続けている英国の芸術大学の動向を理解していませんし、おそらくそれに関心を払うというセンスを失って久しいのです。そのため、「基本」とか「根本」という神話を繰り返しながら、ますます社会的な発言力を失い続けているのです。そのことは、世界的に見て有に30年以上遅れている、入学試験制度だけを見ても明らかなのです。
ポートフォリオ審査を受けるということは、旧来的な技術のみを比較する日本の大学入試とは本質的に異なります。ポートフォリオ作成の重要性は、「自分探し」への取り組みを通じて、アートへの理解を深めることなのです。

ファインアートを学ぶ個性的なカレッジ

 「自分探し」というテーマはひとつでも、実現する方法はたくさんあります。そのために、ロンドン芸術大学にはファインアートを学ぶ個性豊かな5校のカレッジがあります。
今回、ロンドン芸術大学の入学審査でファインアートを志望したJCFLの学生は、それぞれの個性に合わせたカレッジを選択しました。その中でも特に人気のある3つのカレッジについて簡単に紹介します。

 

チェルシー校(Chelsea College of Art & Design)

  ロンドン芸術大学の中で、もっとも有名なファインアート科はチェルシー・カレッジです。もともとはチェルシー地区にありましたが、数年前に現在の場所である、テームズ川に面し、テイト・ブリテン美術館の横に移動しました。それを機会に、絵画と彫刻に分かれていた学科を統合し、現在のファインアート学科を作りました。
最大の特徴は、ファインアートの先端を求めて、世界中からの学生が多く集まるところにあります。そのため学生は厳しい競争の中で、自らの可能性を切り開かなくてはなりません。将来、世界をリードするアーティストが、ここで切磋琢磨しています。

バイアムショー校(Byam Shaw School of Art)

 バイアムショー・カレッジは、数年前にロンドン芸術大学のセントラル・セント・マーチン校に加わりました。加わることでスケールメリットの仲間入りをしましたが、学校としての独自性は失っていません。
比較的小規模ながら、ファインアートのみに特化したこの大学では、他校に比べ、学生と先生の距離が近く、その緊密な関係を生かして、マイペースで「自分探し」ができるところに特徴があります。

ウィンブルドン校(Wimbledon College of Art)

   ウィンブルドン・カレッジもまた、最近になってロンドン芸術大学に加わったカレッジです。ロンドン郊外にあるこの大学は、もともと演劇関係の舞台デザインや衣装デザインで有名です。 最大の特徴は、スタジオでのアート制作を重視しているところにあります。郊外にあることを利点として、各自の制作スペースを十分に用意し、学校全体として学生一人ひとりを暖かく支援する伝統が今も生きています。

 
 
 
 
 
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