I : インタビュアー L:Liz先生 A: Amy
メイクアップアーティストに必要なのはコミュニケーション
I:世界で活躍できるメイクアップアーティストの条件はなんですか?
L:人と一緒に働くことを楽しむ事が大事です。だから上手く人とコミュニケーションをとれる人でなくてはいけません。それも単なるおしゃべりではなく、芸術的で、なおかつ創造的な話ができなくてはいけませんから、まず一番最初の出だしはメイクについてきちんとコースで学ぶことです。
高校生であれば、まずアート&デザインのファウンデーションコースに入り、色や素材について勉強する必要があります。メイクアップアーティストは芸術家たちが使う、こういった色や素材などを使いこなすことができます。だからトーンや色、素材や顔、・・そう様々な人種の顔の特徴についても学ばなければなりません。ということは、かなり勉強しなければいけない(!)ということですね。
美容師の世界から広がったメイクへの興味
I:リズ先生は小さい頃からメイクアップ・アーティストになりたかったのですか?
L: 実はシェフか美容師になりたいと思っていました。そして18歳になって高校を卒業してカレッジに進むという時に、シェフになるためのカレッジと美容師になるためのカレッジの面接を受けました。そして美容師の方に通ったんです。多くのメークアップアーティストはそんな風にメイク以外の興味を持っている事が多いです。たとえば、美容師から始めたり、写真から始めたり、ファッションの分野やアートから入る人もいる。私の場合も、まずはヘアードレッシング(美容師)のコースから始めました。
そして人と一緒に働くということを習いました。最初は良いポートフォリオ(作品集:学校に入る時や仕事を得るときに必要になる)を持っていなかったので、ヘアードレッシングのコースを終えた時、働きながらアート&デザインを勉強しました。そこで色や素材や形といったものを学びました。そしてサロンでメイクをしたり、髪を切ったりしながら、習った技術を使い始めました。その時は24歳ぐらいでした。
その仕事をしてから、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(ロンドン芸術大学)でメイクを学ぶために故郷のエジンバラ(スコットランド)を離れました。そして美容師よりもメイクの方で仕事をしたいと気づきました。
ロンドン芸術大学を卒業後、劇場で何年も働きました。かつらやメイクといったことをしていました。それと同時に映画やテレビの仕事も。ファッションショーの仕事をしたりもしましたが、主に私のテクニックは劇場で訓練されたものです。
I:18歳の時、ヘアードレッサーになるためにどんなことをしましたか。
L:エジンバラの専門学校で2年間のコースだったんですが、どうやって髪を扱うか、スタイリングするかなど様々な方法を学びました。髪をカールしたり、ストレートにしたり。伝統的な髪型作りも学んだし、最新のカットも学びました。そしてヴィダルサスーンのサロンで最新かつファッショナブルなテクニックを身につけるために6ヶ月間トレーニングをしました。その後そのサロンで働き始めたんです。
その時、メイクに興味を持ち始めました。髪を切る時に人の顔の形や風合い、肌や目の色を見ます。そして、お客さんに眉のカットを頼まれたり、メイクについても聞かれたりしました。私がヘアドレッシングのコースを始めた時はメイクアップアーティストを育てるコースはなかったんです。メイクのコースなどは25年ぐらいしか歴史を持たない新しいコースです。メイクアップのコースはその産業が拡大すると共に不可欠のものとなりました。ファッションや映画やテレビの産業も同時に拡大していました。そういった分野で仕事をする技術を持った人が必要となり、まずはアート&デザインの分野で勉強した人がメイクアップアーティストとして起用されていきました。特に映画やファッションの分野に。
身近なものから様々なテイストを学ぶ
I:(勉強のために)雑誌をたくさん読んだり、映画をたくさん見たりしましたか。
L:まずは雑誌から始めていきましたね。色々な国の雑誌を買いました。それはとても大事な事です。今では色んなテイストの雑誌がありますが、その時は少ししかなかったので、イギリスの雑誌だけではもの足りませんでした。ドイツや特にイタリアからの雑誌を買いました。
I:日本の雑誌は?
L:日本の物も買いましたが、ロンドンに行くまでは買えませんでした。スコットランドで海外の雑誌を手に入れるのはとても困難だったんです。ロンドンにいる間はファッションや様々な種類の雑誌を楽しむことができました。ロンドンには色々な文化を持った人々が暮らしています。クラスには様々な他の国から来た人もいるので、それぞれの国のファッションのテイストや劇場のテイストなどについて話したりして、全く知らなかった歌舞伎や宝塚についても知りました。色々な国のメイクの歴史などについて知るのはとても興味深かったです。
メイクは大学で学ぶものという認識がなかった・・・が?
I: エイミーさん、あなたはいつメイクアップアーティストになろうと思いましたか。
A:メイクの学校には行きたいと思っていましたが、メイクは大学で学ぶものという認識がなかったので、まずはアイルランドの大学で4年間、馬についての勉強をしました。卒業後、一年間おいて馬の仕事をしたんですが、合わなかったので他にどんな道があるかと思い、メイクを勉強しようと思ったんです。メイクの勉強をしようと学校を色々と調べて、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションが一番良い学校だと思いました。カレッジの中のコースについても色々と調べました。そしてまずは学校でアートの勉強をしたことがなかったので、ポートフォリオ作りのために一年間休み、準備コースを受験して、そして受かりました。
I: ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションで勉強していて、今一番大変なことは何ですか。
A:デザインです。私はアート&デザインをきちんと勉強したことがなかったので、みんなに追いつくには倍の努力をしなくてはいけません。
I:カレッジで楽しいことは?
A:私はグループで作業をするのが好きです。いろいろな国から来た学生が私のクラスにはいます。カレッジではたくさんのグループワークをします。
大学だからこそ学べること
I: ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションではどういった事が学べますか。
L: カレッジでは主に二つのスキルが学べます。一つはアートデザインの技術的なスキル、ファッションデザインのテクニック、そしてもうひとつはファッションのマネージメントやプロモーションをするスキルです。靴や帽子、子供服、婦人服、紳士服などのデザインに興味がある学生は前者のコースを選びます。
ファッションの中でもさらに細かく分かれていて、例えば映画の衣裳、演劇の衣裳、テレビの衣裳なども勉強できます。
そして、もう一つのファッション・プロモーション・マネージメントの方のスキルですが、こちらにファッションメイク、テレビ用メイクなどの全てのメイクが入ります。ほかにジャーナリズムや美容セラピーなどのコースもあります。
まず、何に興味があるかわからなければ、始めにポートフォリオ作りのためにファウンデーションコースに入るといいです。まったくアート&デザインをやったことがないのであれば、1年間のファウンデーションコースです。他にメイクやヘアスタイリングのための一年のコースもあります。そこではメイクやヘアスタイリングの導入を学び、アート&デザインのポートフォリオ作りもします。それから先、ファウンデーションコース、学位コースと様々なコースがあります。
カレッジの中では他のコースの人と一緒に作業するような機会がたくさんあります。例えば、写真の勉強をしている学生とメイクの勉強をしている学生が一緒に作業をしたりします。演劇用の衣裳を勉強している学生と演劇用のメイクをしている学生などもそうですね。実際の業界でも結局はそうなんです。
I: 例えばメイクだけでなく、色々なことに興味を持っている学生はどうしたらいいですか。
L: ファウンデーションコースでも色々と体験できますが、海外のプログラムに参加すると良いと思います。今年の場合はアメリカなのですが、テレビ用メイク、劇場用メイク、劇場用衣裳、写真など様々な要素のさわりを勉強することができます。それを終えれば、ある程度何がしたいかわかるでしょう。
I: 学位コースの3年間では、どのように勉強していきますか。一年ごとに徐々に難しくなるような段階がありますか。
L: そうですね。一年生のうちはチューターに指示を出してもらったりしながら、シンプルな作業をグループで行なっていくことがたくさんあります。2年目はそれよりは個人レベルになって、自発的、創造的に作業をしていきます。3年目は自分の能力を最大限発揮する時であり、また、よりアカデミックな部分やリサーチなども増えます。一年一年、よりクリエイティブになってゆき、スキルを身につけていきます。3年目には自分が何を身につけたのか、それをテレビや映画、ファッションなどの業界でどのように生かせるかということをはっきりと見せられるようになっていなければいけません。
気になる就職は?
I: 卒業後、学生達は仕事につけますか?
L: ほとんどの学生が、すぐに仕事を手に入れます。ロンドンで見つけることが多いですね。特にロンドン・カレッジ・オブ・ファッションではたくさんの人が勉強して、各業界で活躍しています。デザイナーではジョン・ガリアーノなどが卒業生です。メイクアップアーティストでもロード・オブ・ザ・リングやハリーポッターで活躍した人もいます。チャンスは色々な所にあります。ロンドンだけではなく、海外、ロスや日本、香港、中国などでも。もちろん全員が有名になるわけではありませんが、それでもそれぞれに仕事を楽しんでいますよ。
学生のうちから様々な経験を積む
I: エイミーさんは、映画の仕事をしたということでしが、どうやって見つけたんですか。
A: 去年の夏、カレッジ1年目と2年目の間の夏休みだったんですが、2年目の学費を稼ぐために実家に戻らなくてはいけなかったんです。実家の近くにある映画スタジオに電話して、まずはそこで撮影している映画を聞きました。そして、その映画のプロダクション・マネージャーに電話をしたんです。毎日ね。(笑)それから履歴書を送ったりしました。そして、ようやく「どれだけできるか見よう」と言ってもらったんです。※エイミーさんはこの時、映画「キング・アーサー」の仕事をしました。
I: 同級生もそうやって仕事を見つけていましたか。
A: 2、3人はそうしていたと思いますが、普通はどこの会社に電話をしていいのかもさっぱりわからないのだと思います。
メイクにアート&デザインの基礎は必須
I: 最後にメイクアップアーティストになりたい高校生にメッセージをお願いします。
L:ファッションや映画の業界などでメイクアップアーティストになりたいのであれば、その世界についてできるだけのことを知ろうという熱心さが必要です。他の国の雑誌を見たり、映画を見たりしてね。そしてメイクはアート&デザインと深く関わっているので、ドローイングの仕方、ペインティングの仕方、様々な素材の使い方を学べるコースからまず始めるのが大事です。メイクの世界ではペインティングはしないかもしれませんが、色や素材といったものを扱います。人の顔や顔の形、骨格も見ます。だからアート&デザインコースを勉強することはとても良い導入となります。それで素晴らしい芸術家になるかどうかということではなくて、次のステージに進むために準備していくことができます。そして大学レベルでその訓練をしていくということは大切だと思います。基礎も身につきますし、それから自信もつきます。学位も手に入れることができます。
今業界ではプロフェッショナルでよりアカデミックな背景を持った人を欲しがっています。大学では様々な知識やリサーチの仕方を学びます。リサーチはメイクの仕事をしていく上でも重要です。それと同時にメイクのデザインもできなくてはいけません。例えばファッションショーの時はまず、紙にメイクのデザインを何枚も描かなくてはいけません。 映画の仕事も同じです。ロード・オブ・ザ・リングに出てくるオークのメイクをしようと思えば、まずはデザインを何枚も描くのです。
この業界では常に積極的で貪欲であることが大事です。競争もたくさんありますが、それもまた楽しいです。そしてできるだけたくさんの人と話してその業界で働いている人について知ることも大事です。エイミーがしたように、できることはなんでもやってみるんです。例えば電話をしたり。あなたが電話をしなければ、待っているだけで、向うからやってきてはくれません。でも心配しないで。JCFLで一年英語を勉強したのであれば、あなたは英語と日本語2つの言語を話せるということです。2つの言語を話せれば、色々な国で働けるチャンスがあります。
I: エイミーさん、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションで勉強をしたいと思っている高校生にメッセージをお願いします。
A: あまり心配しないでということですね。私もアイルランドからロンドンという大きな街に移ってきて、始めは色々と心配でしたが、カレッジでは皆が快く迎えてくれました。色々と手助けしてくれる所もありますし、たくさんの人に出会います。寮の仲間たちにもね。コースの中でもすぐに友達ができます。アートを勉強するには素晴らしい学校です。
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