イギリス留学現地レポート

REPORTER

東北大学出身 
海外芸術大学留学コース2012年卒

キングストン大学 映像制作専攻

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2014年2月

 

芸術コースがあるKinghts Parkキャンパスです。

こんにちは。JCFL「海外芸術大学留学コース」卒業生の小峯です。
 
現在イギリス、ロンドンの「Kingston University」にて、「BA Filmmaking(映像制作)」を専攻しています。これから少しずつ、留学生活に関して紹介させていただきます。

映画を学ぼうと思ったきっかけ

キングストンの名所の1つ。ドミノ倒しの電話ボックスです。

日本で通っていた4年制大学では「経済・経営」を専攻していましたが、映画館でアルバイトをしていたこともあり、自分の専攻以上に「映画」に強い興味を抱くようになりました。しかし、映画を含めた芸術に関する仕事には、一部の才能のある人たちだけが就けると考えていたので、仕事にしようとまでは考えていませんでした。
 
そんな考えが変わったのは、大学在学中に、アメリカのカリフォルニアに交換留学をした時でした。
 
その大学には「映画学科」があり、他の専攻科目と同じように勉強する場が設けられていたのです。そこで、映画や芸術も他の分野と同様に学ぶことができるのだと知りました。それ以来、映画を大学で勉強して、将来は「映画製作」の仕事に就きたいと考えるようになりました。

JCFLでの学習

Kingston upon Thamesという地名だけあって、すぐそばにテムズ川が流れています。

大学卒業後、学習費用を貯めるために仕事をしながら、映画を勉強できる教育機関を探しました。けれども、日本では「映画学科」を持つ学校は少なく、また芸術大学に入るには相当の技術と準備が必要でした。そのため、留学して映画を学ぼうと決意し、その準備をするためJCFLの1年制コース「海外芸術大学留学コース」に入学しました。
 
JCFLでは中学の授業以来初めて、美術の勉強をすることになりました。まず学んだのは、即座に作品を作るよりも、自分の関心事についての調査や技術的な実験の結果をスケッチブックに記録していくことが重要だということでした。
 
作品製作は、このスケッチブックでのアイディア展開をもとに行っていきました。自身の技術が未熟であったことや、学習方法に慣れるのに時間がかかったこともあり、最初は自分の作品のつたなさに落胆することが多かったです。それでも、先生方の丁寧な指導を受け、少しずつでしたが、「技術力」「表現力」も向上できたかと思います。
 
時には、直観的な芸術性に任せることも大切だと思いますが、このような地道な方法によってこそ、作品に重要な「オリジナリティ」を見出すことができるのだと感じました。

Kingston Universityの紹介

Kingston Stationです。セントラルロンドンのWaterloo Stationから電車で約30分です。

「Kingston University」は、「Kingston upon Thames」というロンドンの南西に位置する地域にあります。郊外であるため治安は良く、家賃や物価などもロンドン中心地と比較すると低くなっているため、暮らしやすい場所と言えます。また、ロンドンの中心地まで電車で約30分と、そこまで都市部から離れていないのも大きな魅力です。Kingston Universityは総合大学なので芸術以外にも多くのコースを設けています。
 
それぞれの学部は4つある校舎に分けられています。芸術系の学部は、その中でも「Knights Park Campus」というKingston upon Thamesのほぼ中心にある校舎で勉強することになります。建物はそれほど大きくないのですが、製作に必要な設備はひと通りそろっているため、不自由を感じたことはありません。
 
留学生が比較的多い(全学生の約20パーセント)という環境も、日本から来た自分にとっては、暮らしやすい要因の一つになっているかもしれません。

2014年4月

 

コースについて

撮影終了後、俳優の方と一緒に記念撮影

現在は「Filmmaking(映像制作)」というコースに所属しています。主に、映像制作や、映像理論などを学んでいます。年間では平均して、短編映画4~5本、ライティング2~3回、プレゼンテーション1~2回の提出が課せられます。
 
授業は、技術的な側面(「脚本」「編集」「撮影」など)を学習する「ワークショップ」、週に一度の「映像史の講義」、「ディスカッション」、そして少人数で講師と自分の作品について話し合う「チュートリアル」で構成されています。これらの授業が週に3~4日組み込まれています。
 
日本の大学と比較すると授業数は少ないように思えますが、学生は授業のない時間に個人的に学習することが求められています。

映像制作の課題 個人制作とグループ制作

学内のスタジオで撮影準備

短編映画の課題は個人に課せられる場合と、グループに課せられる場合があります。ここでは、最近行った「個人制作」と「グループ制作」の課題を、それぞれの例として紹介したいと思います。

個人制作

個人制作中の1枚

個人制作は、自分の持っている興味・関心を掘り下げ、最終的に映像で表現することが求められます。主題や技術に関しても、野心的に新たな試みを行うことを求められます。
 
昨年度は2つの個人制作を行いましたが、「スーパー8」というデジタルではなく実際のフィルムを使用した映像、グリーン・スクリーンを使用したデジタル合成、「ファントム」という超スローモーションカメラの映像、を作品内で使用することが課せられました。以前はなじみのなかった技術や素材を用いることで、新たな表現方法を発見することができます。

グループ制作

スタジオには様々な機器が

一方、グループ制作では、個人的な技能はもちろんですが、それ以上に、グループの一員としての制作への貢献度で評価されます。現在行っている課題は、1グループ8~9人で構成され、それぞれの学生に「監督」「脚本家」「撮影技師」などの役割が講師から与えられます。
 
興味のある役割が割り当てられない場合もありますが、他の分野を経験することで、自分の興味・関心に対する新たな発見に出会うこともあります。
 
興味・関心のさまざまな人たちが集まり、最終的に1つの作品を作り上げるため、アイディアを発展させるためにグループ内でのコミュニケーションは欠かせません。作品の規模は個人制作よりも大きいため、作品を完成した時の達成感も一段と増します。

2014年6月

 

リサーチの重要性

リサーチ用のスケッチブックです。観賞した映画の内容や自分の興味・関心が記録されています。

初回のレポートで、JCFLで学んだ「スケッチブックを利用したリサーチ」について少し述べましたが、それは現在も作品制作の基礎として継続しています。JCFLの先生方からは、3種類のスケッチブックを使用するように教わりました。
 
「毎日の生活で考えたこと・経験したことなどを記録していくもの」が1冊、「個人的な興味をリサーチしてその造詣(ぞうけい)を深めていくもの」が1冊、そして「取り組んでいるプロジェクトのアイディア展開を行うもの」が1冊、になります。この中でも僕が最も重要だと思うのが、「毎日の生活で考えたこと・経験したことを記録していく」スケッチブックです。
 
このスケッチブックには、どんなささいなことでも良いので、絵や文章で毎日記録をしていきます。「他人と交流した時の自分の心理状態」であったり、「目の前で起こった出来事の観察記録」であったり、「夢の記憶」であったり、「本を読んだ時の感想」であったり、とその内容はさまざまです。プロジェクトが始まる時には、このスケッチブックを見返すと、自分の興味・関心について再確認することができ、作品のアイディア展開がスムーズに進みます。

作品制作の際、参照した本になります。キングストン大学は総合大学なので、図書館にさまざまな本があります。専門である映像制作以外にも、哲学やその他の芸術分野など、多くのことからアイデアを得ることができます。

現代は情報にあふれていて、インターネットを少し閲覧しただけでも、有用な知識を身につけたという認識を持ってしまいがちです。
 
ただし、簡単に手に入る情報は、すでに使い古された知識であったり、裏付けのないものであったりして、そこから独特で説得力のある作品を作ることは難しいと思います。そのため、インターネットのみに頼るのではなく、地道に本を読んだり、目の前のものを観察したり、自分の経験や思考を振り返ったりなどして、その記録を残していくことがオリジナリティのある作品を制作する基礎になると実感しています。僕にとっては今や欠かすことのできない生活の一部となっています。

展示・上映の重要性:British Film Instituteでの上映会

BFI National Theatreの入り口にて。

5月19日にキングストン大学の「BA(Bachelor of Arts) Filmmaking(映像制作)」 と「MA(Master of Arts) Experimental Filmmaking(実験的映像制作)」の学生の作品の上映会が、「英国映画協会」の施設である「British Film Institute」 にて開催されました。全学生の作品が発表されるわけではなく、先生方に選考された作品のみが上映されます。
 
そして幸いなことに、選考された27作品の中に僕の作品も選ばれていました。
 
比較的小さい劇場での開催となりましたが、キングストン大学の学生のみならず、一般の方や他の大学の学生も見に来ていました。

BFIの中で記念撮影をしました。一緒に写っているのはJCFL芸術コースの1年後輩で、キングストン大学でもBA Filmmakingの1学年後輩にあたる島田さんです。彼女の作品も今回の上映に選考されました。

同年代の人たちが作成し、さらに選考を経た作品を見るということは今後の自らの制作活動にとって非常に刺激になりますし、自分の作品が選考されれば今後の制作活動の自信につながります。
 
学生の時から自分の制作活動を多くの人に認知してもらうことは難しいです。そのため、作品をどのような形で発表できるかということはとても重要です。学校やコースによっては、クラス内の発表のみに限定する場合もありますし、先の上映会のように一般の人の目につくところでの展示・上映がカリキュラムとして組み込まれている場合もあります。作品の展示・発表の条件も、留学先の学校を決定する際の重要な要素になるのではないでしょうか。

2014年8月

 

夏休み

イギリスの大学はほとんどの学位コースが、5月後半あるいは6月中に修了となります。新学期が始まるのは9月~10月ですので、3か月以上の休暇があります。今回は休暇中の活動についてレポートしたいと思います。

ディグリーショー

キングストン大学のディグリーショー

5月後半~6月には、各大学にて卒業制作の展示(ディグリーショー)が始まります。
 
先日キングストン大学でもこのディグリーショーが開催されました。校舎全体を使用しての大規模な展示になります。自分が所属するコースの展示はもちろん、一般公開の期間内であれば、他の全ての展示を鑑賞することができます。まったくなじみのなかったコースの作品から影響を受け、自らの作品制作のアイディアを得ることもありますので、ゆっくりと時間をかけて回ってみるのも良いかと思います。

他学科の学生の作品も良い刺激に

また、ディグリーショーは基本的に学校関係者以外にも開かれているので、他の大学の展示を鑑賞することもできます。学期中ではなかなか他大学を訪れることはないですから、この時期は自分の学校とは違った作風の作品を鑑賞する良い機会になります。

インターンシップ・アルバイト

インターンシップにて行った映像作品の編集作業画面

今回の夏休みでは、インターンシップ生として、ロンドン在住の日本人デザイナー兼アーティストの方が持つブランドにて、映像制作をお手伝いすることになりました。自分の作る作品とは様式も作業の仕方も異なるため、就業して数週間は戸惑うことが多くありました。それでも、プロフェッショナルの現場ではどのような作品が受け入れられているのかを自分の目で確かめることができ、また現場で必要な作業を体験することもできたので、非常に有益な時間を過ごせました。
 
インターンシップは無給であることが多いのですが、アルバイトや短期の仕事をして、学習・生活のための費用を稼ぐこともできます。レストランや小売店はもちろんですが、イギリスでは芸術関連の職場からの求人も比較的多くあります。僕も先日、自ら所持するカメラを利用して、写真撮影の仕事を引き受けました。自ら培った技術をプロフェッショナルの現場で使用できたのは自信になりました。
 
芸術留学した場合、卒業後も芸術関連の就業を目指す方が多いと思います。これらの活動はその第一歩として非常に有効かと思いますので、イギリス在住中にぜひ体験してみてはいかがでしょうか? そのほかにも、休暇中は図書館など学校の施設が空いていることもあるので、集中してリサーチをすることができます。また、イギリスからはヨーロッパ諸国を訪れやすいこともあり旅行する人も多くいます。 イギリスに留学された際は、ぜひ有意義な夏休みを過ごしてください。