Q イギリスでメイクを学ぼうと思った理由は何ですか?
A 進学校に通っていたので周りは大学へ進むのが当たり前という雰囲気があったのですが、私はアルバイトやサークルをのんびりやって4年間を過ごしてしまう日本の大学生活に抵抗を感じていました。たまたまJCFLを知り、留学という選択肢が見えてきました。初めは漠然とアメリカかなと思っていたのですが、イギリスの大学はやりたい分野だけを集中して勉強できるというシステムだったので、自分はイギリスタイプかな、と。最初はグラフィックをやろうと思っていたのですが、病院でボランティアをしている時に、いつもはむっつりとしている患者さんが化粧を施してもらった日は溌剌としているのを見て、「化粧ってすごいな」と思ったんです。人のキャラクターを変えられるアートっておもしろいな、やってみようと思いました。
Q ロンドン芸術大学 ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションではどんな勉強をしましたか?
A 1年時はメイクの基礎を勉強します。メイクは顔の凹凸を知るために頭蓋骨の勉強から始めるんです。くま隠しや顔を細く見せるなどの美容メイクや、本物らしく傷口などを作る特殊なメイク術なども学びます。ヘアスタイルでは、マリーアントワネットの時代から現代まで、様々な時代のウィッグを作ります。付け髭やもみ上げの制作もやりました。技術が身についたところで、舞台の脚本を読んで舞台全体の世界観と特定の登場人物を想定し、シーンごとの服装やメイク等をデザインするという課題もありました。
2年になると、さらにその応用です。ペア、あるいは6〜9人のグループで脚本を読み、ストーリーとキャラクターのリサーチをし、グループごとにコンセプトを決めてデザイン、制作、プレゼンテーション、という流れでプロジェクトを行うことが多かったです。3年は卒業制作、ショーに取り組みます。特に卒業ショーは5日間にわたって行われ、チケットは一般発売される大々的なものです。プロが台本作りを行い、先生に指名された学生がキャラクターをデザインします。私は主人公を担当させてもらったのですが、みんなで意見交換を行いながら1つのものを作り上げるというのは貴重な経験でした。
Q 美術の初心者からスタートし、卒業ショーでは主人公のデザインを担当するまでに。学生生活について教えて下さい
A 普通の英語だけでも留学生にとっては大変なのに、美術の専門用語が沢山出てくるので、現地の子と同じだけやっていたのではだめだ!と思い、3倍くらいやるつもりで取り組みました。どうせやるなら一番良い成績で勉強したい、と思ったんです。朝9時から夕方5時までみっちり授業があり、授業ごとに作品の写真、制作の手順、自分なりの評価を提出しなければいけないので、毎日夜の7、8時までは学校にいました。家に帰ってもまたレポートや次の日の準備があり、週末は図書館や美術館で過ごすことが多かったですね。学生生活はとても忙しかったのですが、目標としていたFirst(一番良い評価)を取れたことが、自信につながりました。留学は言葉の壁や厳しい課題があり、常に自分という人間を問われているような状況だったので、精神的にとてもタフになったと思います。
Q 留学生活の楽しみはどんなことでしたか?
A 作業を通してコースの子と仲良くなって、ゴハンやお茶に行ったりするのは楽しかったですね。それから、日本ではなかなかチケットが取れないようなアーティストのライブがイギリスでは安く見られるのも、音楽好きの私にとっては嬉しかったです。ミュージカルやお芝居など一流のものが手軽に見られたので、見る目が肥えたかなと思います。作品を作っていく上でのインスピレーションにもなりましたね。
Q 卒業してから現在までの仕事について教えて下さい
A 卒業後1年はイギリスでメイク関連の色々な仕事をしていました。ディナーショーやミュージカルのヘアメイクをしたり、デザイナーさんがカタログ制作を行う時のヘアメイクを担当したり。帰国した際に以前からお付き合いのあったアニメ監督さんにご連絡をしたところ、ヤフーと吉本興業が立ち上げた『MYZO』という動画配信サイトの企画に誘っていただきました。どういう企画かというと、足に足指ソックスをかぶせてメイクや衣装を施し、その足裏人形を使って日本の古典を3分ほどの短いストーリーで紹介するというものです。私はそのプロジェクトでは人形デザインと背景リサーチを担当させてもらっています。これまでに『たけくらべ』や『銀河鉄道の夜』など4本を制作しているのですが、出来高制で報酬を頂いています。
Q 将来の夢、今後の目標を教えて下さい
A 今持っている仕事を精一杯やります。今は足裏人形の衣装だけですが、絵コンテなどの部分も任せてもらえるようになりたいです。それから制作活動。日本ではまだデザイン性の高いウィッグが一般的になっていないと思うので、ファッションなどに応用の利くものを作っていきたいです。留学前は、大学とか企業に属することを考えていたけれど、今はもっと本質的な部分を見ていきたいなと考えています。名前や肩書きよりも、自分がやりたい事を突き詰めて、芯をもって生きていきたいです。
Q 留学に憧れている人へのメッセージ
A 楽しそうだな、とかワクワクする気持ちを感じるなら、進んでみたらいいと思う。大学の名前とか世間体にとらわれて動いてしまうと後で後悔することになると思うので、自分の感覚を信じて道を選んでいって下さい。考え込んだら進めなくなってしまうことって沢山あると思います。その時、その時を後悔しないように行動することが大切です。確信は自分で作っていかないと!